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「スペシャルインタビュー」 内藤忍

「スペシャルインタビュー」 内藤忍


ないとう しのぶ
1964年、東京都生まれ。86年、東京大学経済学部卒。住友信託銀行在籍中に、MITスローン・オブ・マネジメントにてMBAを取得。97年、シュローダー証券投信投資顧問に転職。99年、マネックス証券の設立に参加。05年より現職。『内藤忍の「好き」を極める仕事術』(講談社BIZ)など著書多数。
同社HP:http://www.monexuniv.co.jp/

投資の正しい知識をひとりでも多くの人へ伝えるための教育事業

 マネックス・ユニバーシティは、個人投資家のための投資教育会社です。1999年にマネックス証券の立ち上げに参加し、ネット証券会社が生まれたことで、日本でも金融イノベーションが起こりました。でもこの仕事を続けるうちに、多くの個人が儲かっていないことがわかってきたんですね。運転初心者がいきなりフェラーリに乗って、高速道路をかっ飛ばしているようなもの。それでは、事故が増えるのは当然です。そこで我々は、投資初心者のための、お金の教習所をつくろうと考えました。そして、短期集中投資ではなく、アセットアロケーション(リスクをコントロールしながらリターンを獲得する資産配分)に基づく資産設計方法を、セミナーやe-ラーニングを通じて提供するサービスをスタートさせたというわけです。

 投資の中・上級者を育てるのではなく、あくまでも金融の知識がないために大切なお金を減らしてしまっている方々が主な対象です。今も私は、年間30~40本投資セミナーを行っていますが、昨年末、有楽町の数寄屋橋でセミナーがあったんですよ。少し早めにセミナー会場に到着したら、大行列が。「私のセミナーにこれほど多くの人が!?」と思ったら、勘違いでした(笑)。それは、「宝くじが当たる」といわれる売り場にできた行列で、最後尾は寒風の中2時間待ち。方や、こちらのセミナーなら温かな部屋で2時間勉強し、正しい投資の知識を学べます。同じ時間と100万円を使ってお金を増やしたいなら、宝くじよりも断然、アセットアロケーションの成功確率のほうが高いのです。「ひとりでも多くの人々に、正しい金融リテラシーを授けたい」。その大行列を見て、思いを強くしました。

 もちろん趣味で購入される方もいますが、宝くじや競馬は、"貧者の税金"と揶揄されることもあります。確かに、金融リテラシーの低い人ほど、それら合法的な仕組みに騙されやすい傾向にあるようです。でも、資産運用は人生の夢・目標をかなえるための大切な手段でしょう。しっかりお金に向き合って、より確かなお金の働かせ方を検討すべきです。我々が考える正しい投資とは、様々な国や企業の生産活動を手助けし、そのお金が世の中や社会を発展させるために使われる究極の社会貢献。そんな社会貢献活動に参加しながら、自分の夢をかなえるためのお金を増やしてほしいのです。

 これまで、10冊を超える本を出版してきましたが、昨年は、漫画をからめた『はじめての投資大作戦』や、新書『60歳までに1億円つくる術』を出版。書店の投資本コーナー以外の場所に自著を置くことで、投資初心者に興味を持ってもらうための戦略を進めています。また、この2月(2009年)には、慶應義塾大学の日吉キャンパスで、小学2~5年の子どもたちを対象にした、お金にまつわるワークショップを開催します。これからもひとりでも多くの方々に正しい金融リテラシーを理解してもらい、投資活動をとおして未来の幸せをつかんでほしい。マネックスグループは、"負けにくい投資家"をたくさんつくりたいと考えています。

さらに進展する変化の時代、
会社から求められる人材はマネジャーとスペシャリスト

 住友信託銀行に入社し、主にファンドマネジャーの仕事に携わっていました。入社10年目の1996年、インターネットの存在を知った私は自作のホームページを作成し、日記のようなものを書き始めました。今でもその文章を見られますが、当時はバブル崩壊後で金融業界は危機的な状況。会社への警鐘を鳴らすような内容ばかりでしたね。ちょうどその頃、設立70周年の社内懸賞論文の募集があり、会社改革案をまとめて提出したんです。するとそれが入賞となった。「俺の改革案が選ばれたのだから、きっと会社が変わる!」。その後、期待を胸に仕事に取り組みましたが、何も変わらないわけです......。このままでは、競合他社と同じ。なぜ自分は住友信託銀行という会社で働いているのか? そんな疑問が日に日に大きくなり、私は本気で転職を考え始めます。

 昔から、人と違うことに価値があると考えていました。誰にでもできる仕事なら自分がやる意味はない。「内藤さんでなくてはダメ」と言われるような仕事じゃないと。留学時代に面識のあったヘッドハンターにそんな相談をしたら、「君にぴったりの会社がある」と。紹介されたのがシュローダー証券投信投資顧問です。入社してみると、仕事の進め方も、意思決定のスピードも私のイメージどおりでした。給料も増え、楽しく働いていたんです。ところが入社2年後の1999年3月、日経新聞夕刊の記事に、「松本大氏がソニーとマネックス証券を設立」という記事が。彼は大学の同級生でしたから、すぐにメールを出してオフィスに遊びに行きました。最初はエールを送るつもりだったんですが、その後、何度か話をするうちに、「一緒にやらないか」と誘われるように。

 当時の私は35歳。多少の不安はあったので、件のヘッドハンターに相談してみました。「マネックスが失敗したら、私の人生はどうなるんでしょうか?」。彼曰く、「2年後なら、まだどこかの金融機関で働けるでしょう」「そうですか」と。まあ、それよりも、まったく新しい仕組みを世に生み出す仕事に携われるという高揚感が大きかった。ルールにしばられ、閉そく感が続く既存の金融業界と比べれば、太平洋を自由に泳ぎ回れるようなもの。自分の考えが、好きに表現できるチャンスでもあります。5年後、マネックスが金融界のストリームをつくっていたらどうか? 目の前のリスクを取らなかったことで、未来の自分を後悔させたくない。そう考えて、たった4人のマネックス立ち上げに参加したんです。

 マネックス参加以外での自己変革を挙げよと問われれば、5年前に初めて自分で本を書いたことだと思っています。内容は本業の投資教育ですが、私にとって大きな名刺になりました。会いたい人にどんどん出会え、人に会うと発想が広がり、新たな仕事のコラボレーションも。また、200人のセミナーを年間100回やっても、聴講者は2万人。本が売れればいっきに数万人の読者にアクセスすることができますからね。実は本を書くこと自体、意外とハードルは高くないんです。売れる本をつくるのは確かに難しいですが(笑)。みなさんもチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

 では何を書くのか? 誰にだって好きなことはあるはずです。ただ、それに気づいていない人が多いんです。今から考えれば、私はやはり教育が好きだったのでしょうね。だから本をつくることができたのだと思います。本当に自分が好きなことを知りたいなら、周囲にいつもあなたが何を話しているのか聞いてみるといい。妻に言わせると、私は、電車の中で予備校や大学の広告を見つけては、熱く語っているそうなのです(笑)。どんなことだって、好きを極めれば仕事になる。お酒好きが高じてお店を出す人もいますし、おもちゃが好きでブリキの博物館をつくった人もいるんですから。自分が好きで、楽しく論を構築できそうなものを見つけたら、ぜひ、本を書くという発想をしてみてください。大きな自己変革を起こすためのひとつの方法だと思います。

 さて、国や企業など、ポジショニング・チェンジのスピードが早まっています。そんな時代の中、企業が求めるのは、マネジャー(経営者)とスペシャリスト(専門家)、このふたつに絞られてくるでしょう。それ以外の人は、グローバル競争に巻き込まれ、賃金の安いコモディティ(汎用人材)に収斂されていくことになる。マネジャーかスペシャリスト、どちらを目指すにせよ、まずは今の自分をしっかり把握し、周囲との差異を見つけ、差異を積み重ねながらバリューアップし続けることがひとつ。そのうえで、将来の明確な目標を定め、それに向かって努力し続けること。自分という存在から会社を引いて何も残らない人はすぐに淘汰されてしまいます。そして、「○○さんじゃないとダメ」と、常に言われる人であり続けること。そうなるためには、自分の「本当の好き」を見つけ、それを仕事にすることが一番大切なのだと思います。

取材・文/菊池徳行(アメイジングニッポン)
撮影/大平晋也

(掲載日:2010年02月01日)


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